『露国ニ対スル宣戦ノ詔勅』

*『露国ニ対スル宣戦ノ詔勅』原文(明治37年2月10日)

天佑ヲ保有シ万世一系ノ皇祚ヲ践メル大日本帝国皇帝ハ忠実勇武ナル汝有衆ニ示ス

朕茲ニ露国ニ対シテ戦ヲ宣ス朕カ陸海軍ハ宜ク全力ヲ極メテ露国ト交戦ノ事ニ従フ ヘク朕カ百僚有司ハ宜ク各々其ノ職務ニ率ヒ其ノ権能ニ応シテ国家ノ目的ヲ達スル ニ努力スヘシ 凡ソ国際条規ノ範囲ニ於テ一切ノ手段ヲ尽シ遺算ナカラムコトヲ期 セヨ

惟フニ文明ヲ平和ニ求メ列国ト友誼ヲ篤クシテ以テ東洋ノ治安ヲ永遠ニ維持シ各国 ノ権利利益ヲ損傷セスシテ永ク帝国ノ安全ヲ将来ニ保障スヘキ事態ヲ確立スルハ朕 夙ニ以テ国交ノ要義ト為シ旦暮敢テ違ハサラムコトヲ期ス 朕カ有司モ亦能ク朕カ 意ヲ体シテ事ニ従ヒ列国トノ関係年ヲ逐フテ益々親厚ニ赴クヲ見ル 

今不幸ニシテ露国ト釁端ヲ開クニ至ル豈朕カ志ナラムヤ 帝国ノ重ヲ韓国ノ保全ニ 置クヤ一日ノ故ニ非ス 是レ両国累世ノ関係ニ因ルノミナラス韓国ノ存亡ハ実ニ帝 国安危ノ繋ル所タレハナリ 

然ルニ露国ハ其ノ清国トノ明約及列国ニ対スル累次ノ宣言ニ拘ハラス依然満洲ニ占 拠シ益々其ノ地歩ヲ鞏固ニシテ終ニ之ヲ併呑セムトス 若シ満洲ニシテ露国ノ領有 ニ帰セン乎 韓国ノ保全ハ支持スルニ由ナク極東ノ平和亦素ヨリ望ムヘカラス 

故ニ朕ハ此ノ機ニ際シ切ニ妥協ニ由テ時局ヲ解決シ以テ平和ヲ恒久ニ維持セムコト ヲ期シ有司ヲシテ露国ニ提議シ半歳ノ久シキニ亙リテ屡次折衝ヲ重ネシメタルモ露 国ハ一モ交譲ノ精神ヲ以テ之ヲ迎ヘス 曠日弥久徒ニ時局ノ解決ヲ遷延セシメ陽ニ 平和ヲ唱道シ陰ニ海陸ノ軍備ヲ増大シ以テ我ヲ屈従セシメムトス 

凡ソ露国カ始ヨリ平和ヲ好愛スルノ誠意ナルモノ毫モ認ムルニ由ナシ 露国ハ既ニ 帝国ノ提議ヲ容レス韓国ノ安全ハ方ニ危急ニ瀕シ帝国ノ国利ハ将ニ侵迫セラレムト ス 事既ニ茲ニ至ル帝国カ平和ノ交渉ニ依リ求メムトシタル将来ノ保障ハ今日之ヲ 旗鼓ノ間ニ求ムルノ外ナシ

朕ハ汝有衆ノ忠実勇武ナルニ倚頼シ速ニ平和ヲ永遠ニ克復シ以テ帝国ノ光栄ヲ保全 セムコトヲ期ス

(御名御璽)


<*読み下し文>

天佑ヲ保有シ、万世一系ノ皇祚(こうそ)ヲ践(ふ)メル大日本帝国皇帝ハ、忠実 勇武ナル、汝、有衆(ゆうしゅう)ニ示ス。

朕、茲(ここ)ニ、露国ニ対シテ戦ヲ宣ス。朕ガ陸海軍ハ宜(よろし)ク全力ヲ極 メテ露国ト交戦ノ事ニ従フベク、朕ガ百僚有司(ひゃくりょうゆうし)ハ、宜ク各 々(おのおの)其(そ)ノ職務ニ率(したが)ヒ、其ノ権能ニ応ジテ国家ノ目的ヲ 達スルニ努力スベシ。凡(おおよ)ソ、国際条規ノ範囲ニ於テ、一切ノ手段ヲ尽シ、 遺算ナカラムコトヲ期セヨ。

惟(おも)フニ、文明ヲ平和ニ求メ、列国ト友誼(ゆうぎ)ヲ篤クシテ、以テ東洋 ノ治安ヲ永遠ニ維持シ、各国ノ権利利益ヲ損傷セズシテ、永ク帝国ノ安全ヲ、将来 ニ保障スべキ事態ヲ確立スルハ、朕、夙(つと)ニ以テ国交ノ要義ト為シ、旦暮( たんぼ)敢(あえ)テ違(たが)ハザラムコトヲ期ス。朕ガ有司モ亦(また)、能 (よ)ク朕ガ意ヲ体シテ事ニ従ヒ、列国トノ関係年ヲ逐(お)フテ、益々親厚ニ赴 (おもむ)クヲ見ル。

今、不幸ニシテ露国ト釁端(きんたん)ヲ開クニ至ル。豈(あに)朕ガ志ナラムヤ。 帝国ノ重(おもき)ヲ韓国ノ保全ニ置クヤ、一日ノ故ニ非(あら)ズ。是(こ)レ 両国累世ノ関係ニ因(よ)ルノミナラズ、韓国ノ存亡ハ、実ニ帝国安危ノ繋(かか) ル所タレバナリ。

然ルニ、露国ハ其ノ清国トノ明約及ビ列国ニ対スル累次ノ宣言ニ拘ハラズ、依然、 満洲ニ占拠シ、益々(ますます)其ノ地歩ヲ鞏固(きょうこ)ニシテ、終(つい) ニ之(これ)ヲ併呑(へいどん)セムトス。若(も)シ満洲ニシテ露国ノ領有ニ帰 セン乎(か)。韓国ノ保全ハ支持スルニ由ナク、極東ノ平和、亦(また)素(もと) ヨリ望ムベカラズ。 

故ニ、朕ハ、此(こ)ノ機ニ際シ、切ニ妥協ニ由(よっ)テ、時局ヲ解決シ、以テ 平和ヲ恒久ニ維持セムコトヲ期シ、有司(ゆうし)ヲシテ露国ニ提議シ、半歳ノ久 シキニ亙(わた)リテ屡次(るじ)折衝(せっしょう)ヲ重ネシメタルモ、露国ハ、 一(ひとつ)モ交譲(こうじょう)ノ精神ヲ以テ之ヲ迎ヘズ。曠日(こうじつ)弥 久(いやひさしく)徒(いたずら)ニ時局ノ解決ヲ遷延(せんえん)セシメ、陽ニ 平和ヲ唱道シ、陰ニ海陸ノ軍備ヲ増大シ、以テ我ヲ屈従セシメムトス。

凡(おおよ)ソ、露国ガ始(はじめ)ヨリ、平和ヲ好愛スルノ誠意ナルモノ毫(ごう) モ認ムルニ由ナシ。露国ハ、既ニ帝国ノ提議ヲ容レズ、韓国ノ安全ハ方(まさ)ニ、 危急ニ瀕シ、帝国ノ国利ハ、将(まさ)ニ侵迫(しんぱく)セラレムトス。事、既 ニ茲(ここ)ニ至ル。帝国ガ平和ノ交渉ニ依リ、求メムトシタル将来ノ保障ハ、今日 之ヲ、旗鼓(きこ)ノ間ニ求ムルノ外ナシ。

朕ハ、汝、有衆ノ忠実勇武ナルニ倚頼(いらい)シ、速(すみやか)ニ平和ヲ永遠 ニ克復(こくふく)シ、以テ帝国ノ光栄ヲ保全セムコトヲ期ス。

(御名御璽)


<*現代語訳>

 天の助力を保ち抱いてきた、万世一系の皇位を受け継いだ大日本帝国の皇帝は、 忠実にして勇武なる汝ら、国民に示す。

 余は、ここに、ロシアに対して宣戦を布告する。余の陸海軍は、ぜひとも全力を尽 くして、ロシアとの交戦に従事し、政府関係者・官僚・役人のすべては、よろしく 各員、その立場に従い、能力に応じて、国家の目的を達成するよう努力すべし。お よそ、国際法の範囲において、あらゆる手段をつくして漏れ落ちるところの無いよ うに心がけよ。

 余が顧みるに、文明を平和裏に求め、諸外国と友好関係を厚くし、それによって東 アジアの治安を永久的に維持し、各国の権利や利益を損ねることなく、恒久的な帝 国の安全を、将来的に保障すべき状態を確立することは、余が特に国際関係におい て要諦とし、わずかな時間でも、あえてたがえることが無いようこころがけてきた ことである。
 余の官僚・役人たちもまた、よく余の意志を実現して、つとめに従事し、諸国との 関係も、年を追うごとに、ますます親交の度合いの深まりを見せている。

 今、不幸にしてロシアと戦端を開くに至った。どうして、これが余の本意であろう か。帝国にとって韓国の保全が、重要な要素となったのは、一日二日のことではな い。両国の歴史的な関係によるばかりでなく、韓国の存亡は、まことに帝国の存亡 にも関わってくる問題だからである。

 しかしながら、ロシアは清国との明らかなる条約、及び、諸国に対する数次の宣言 にもかかわらず、依然として満洲を占拠し、ますますその地歩を強固にして、最終 的には満州を併呑しようとしている。もしも、満州がロシアの領土になったならば、 どうなるであろうか。韓国の安全保障は維持不能となり、極東地域の平和は望むべく もない。

 ゆえに、余は、この事態に際し、ロシアとの妥協によってこの局面を解決し、切実 に平和を恒久的に維持しようと決意し、官僚に命じてロシアに提案と協議をもちか け、半年の間にしばしば折衝を重ねさせたのであるが、ロシアは一度として譲り合 いの精神をもって迎えたことはなく、無意味な時間ばかりが経ってしまい、むやみ に事態の解決を遅らせ、うわべでは平和を唱えながら、裏では陸海軍の軍備を増強 し、それによってわが国を屈服させようとした。

 多分に、ロシアは最初から、平和を愛する誠意など、寸毫たりとも、持ってはいな かった。ロシアは、すでに帝国の提案と協議を受け入れず、韓国はそのために存亡 の危機にさらされ、帝国の国益はまさに侵されようとしている。事態は進行し、こ こに至ってしまった。帝国が、平和的な交渉によって求めてきた、東アジアの将来 にわたる安全保障も、本日これを軍旗と進軍ラッパによって求めるほかはない。

 余は、汝ら、国民の忠実さと勇武さに寄り頼み、速(すみやか)に、この戦争に勝 って、以前と同じ平和を恒久的に取り戻し、帝国の栄光を全うすることを決意する。

(御名御璽)


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