『国際聯盟脱退ノ詔書』

『国際聯盟脱退ノ詔書』(昭和8年3月27日:原文)

朕惟フニ曩ニ世界ノ平和克復シテ国際聯盟ノ成立スルヤ皇考之ヲ懌ヒテ帝国ノ参加ヲ命シタマヒ朕亦遺緒ヲ継承シテ苟モ懈ラス前後十有三年其ノ協力ニ終始セリ

今次満洲国ノ新興ニ当リ帝国ハ其ノ独立ヲ尊重シ健全ナル発達ヲ促スヲ以テ東亜ノ禍根ヲ除キ世界ノ平和ヲ保ツノ基ナリト為ス然ルニ不幸ニシテ聯盟ノ所見之ヲ背馳スルモノアリ朕乃チ政府ヲシテ慎重審議遂ニ聯盟ヲ離脱スルノ措置ヲ採ラシムルニ至レリ

然リト雖国際平和ノ確立ハ朕常ニ之ヲ冀求シテ止マス是ヲ以テ平和各般ノ企図ハ向後亦協力シテ渝ルナシ今ヤ聯盟ト手ヲ分チ帝国ノ所信ニ是レ従フト雖固ヨリ東亜ニ偏シテ友邦ノ誼ヲ疎カニスルモノニアラス愈信ヲ国際ニ厚クシ大義ヲ宇内ニ顕揚スルハ夙夜朕カ念トスル所ナリ

方今列国ハ稀有ノ政変ニ際会シ帝国亦非常ノ時艱ニ遭遇ス是レ正ニ挙国振張ノ秋ナリ爾臣民克ク朕カ意ヲ体シ文武互ニ其ノ職分ニ恪循シ衆庶各其ノ業務ニ淬励シ嚮フ所正ヲ履ミ行フ所中ヲ執リ協戮邁往以テ此ノ世局ニ処シ進ミテ皇祖考ノ聖猷ヲ翼成シ普ク人類ノ福祉ニ貢献セムコトヲ期セヨ
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<読みくだし文>

朕(ちん)、惟(おも)うに、曩(さき)に世界の平和、克復(こくふく)して、国際聯盟の成立するや、皇考(こうこう)、これを懌(えら)びて帝国の参加を命じたまい、朕、また遺緒(いしょ)を継承して、いやしくも懈(おこた)らず、前後十有三年、その協力に終始せり。

今次、満洲国の新興に当り、帝国はその独立を尊重し、健全なる発達を促すをもって、東亜の禍根を除き、世界の平和を保つの基なりと為す。しかるに不幸にして、聯盟の所見、これを背馳(はいち)するものあり。朕、すなわち政府をして慎重審議、遂に聯盟を離脱するの措置を採(と)らしむるに至れり。

然(しか)りといえども、国際平和の確立は、朕、常にこれを冀求(ききゅう)してやまず、これをもって平和各般の企図は、向後また協力して渝(かわ)るなし。今や聯盟と手を分ち、帝国の所信にこれ従うといえども、もとより東亜に偏して友邦の誼(よしみ)を疎(おろそ)かにするものにあらず。いよいよ信を国際に厚くし、大義を宇内(うだい)に顕揚(けんよう)するは、夙夜(しゅくや)朕が念とする所なり。

今まさに、列国は、稀有(けう)の政変に際会し、帝国また非常の時艱(じかん)に遭遇す。これ正に挙国振張の秋(とき)なり。爾(なんじ)臣民、よく朕が意を体し、文武、互いに、その職分に恪循(かくじゅん)し、衆庶(しゅうしょ)、おのおのその業務に淬励(さいれい)し、嚮(むか)う所、正を履(ふ)み、行ふ所、中を執(と)り、協戮(きょうりく)、邁往(まいおう)もってこの世局に処し、進みて皇祖考(こうそこう)の聖猷(せいゆう)を翼成(よくせい)し、普(あまね)く人類の福祉に貢献せむことを期せよ。
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<現代語訳>

 余がかえりみるに、先般、世界が戦争を克服して平和を回復し、国際連盟が成立するとともに、父帝(大正帝)は、加盟を選択され、大日本帝国の参加をお命じになり、余もまた父帝の遺業を継承して、いやしくも怠ることなく、かれこれ十三年間、連盟への協力に終始してきた。

 今回、満洲国を新たに興したことにつき、帝国は、その独立を尊重し、健全なる発達を促すことで、東アジア域の災いの種を除き、世界の平和を保つ基礎となした。ところが、不幸にして、連盟の(満州国に関するリットン調査団による)所見には、道理にそむくものがある。余はそこで、政府に慎重に審議させ、遂に連盟を離脱するという措置をとらせることになった。

 そうではあるけれども、国際平和の確立は、余が常に求め願ってやまないものであるし、離脱したからといって、平和のための各分野での(国際連盟の)企図には、今後も協力して変わる事はない。今や連盟と手を切り、自帝国の意思に従うことになったけれども、もとより東アジア域に偏って、他国との友邦のよしみを、おろそかにするつもりはない。(それどころか)いよいよ国際的に信頼を厚くし、大義を世界じゅうに明らかに掲げることは、早朝から深夜まで(寝ても覚めても)余の念願とする所である。

 今まさに、列国は、稀有(けう)の政変に遭遇し、帝国もまた非常なる時代の難関にぶつかっている。これはまさに国を挙げて国威を拡張する時である。汝臣民、よく余の意を体し、文官・武官・官吏たちは、互いにその職務に精勤し、庶民は、おのおのその業務に勉め励んで、判断は正義をもとに、行動は中道をゆき、多くの心と力をあわせて邁進することによって、この時代に対処し、積極的に祖父帝(明治帝)の大いなる御遺志の成就を助け、普遍的な人類福祉への貢献を期せよ。


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