六人部是香『産須那社古伝抄』・注(八神邦建)

『産須那社古伝抄』の注

○著者の六人部是香ならびに産土神信仰については、原文読みくだしのページの冒頭部を参照のこと。

 以下の注(*1〜4)は、底本「日本思想大系51/国学運動の思想・産須那社古伝抄」の注、ならびに『神道大辞典』(臨川書店・復刻版)、『諸祭神名総覧』(山雅房)に依った。

[*1]
 幽冥(ゆうめい):神や霊たちのいる目に見えない世界のこと。この世から見て、死後の世界をも意味する。平田篤胤派の国学者たちの霊界観の一つ。
この世を「顕明の世界」と呼ぶのに対し、あの世、すなわち神や霊の秩序ある階層世界のことを「幽冥の世界」という。

[*2]
 五柱の産霊大神(むすびのおおかみ):産霊大神は万物を産み成す神々のこと。「ムスビ」の「ムス」は「産む/生む」ことで、例をあげれば「おむすび」の「ムス」、「息子/娘」の「ムス」であり、「ビ」は「ヒ」すなわち御霊・霊魂のことを意味する。産霊大神は、通例、八柱の神とされているが、六人部の著書では五柱となっている。

 列挙すると次の通り。
・津速産霊神(つはやむすび)=岩戸開きのときに祝詞を奏上した神である天児屋根命(あめのこやねのみこと)の祖父神
・興台産霊神(こごとむすび)=天児屋根命の父神にして言霊の神 / 底本の解説には「こうだいむすび」とあるが、六人部の本著の解説書『産須那社古伝抄広義』にも、そのようなフリガナがしてあるのかどうか、『広義』が入手困難で未確認。通常は「こごとむすび」と読むので、底本の解説はとらず、通例に従った。
・活産霊神(いくむすび)=万物の生成と育成をつかさどる神で「イク」は美称。
・足産霊神(たるむすび)=万物に備わるむすびの力をつかさどる神「タル」は美称。
・角凝産霊神(ツヌゴリムスビ:国底立神の別称ともいう)=通例は、この五神に加え、火産霊神(ホムスビ:火の神)、稚産霊神(ワクムスビ:穀物の神)、魂留産霊神(タマツメムスビ:鎮魂の神)を加えた八神を「産霊大神」と呼ぶ。
 底本の解説では「『広義』の中に五柱の神として【津速産霊】【興台産霊】【神活産霊】【足産霊】【安産霊】とある」と書いているが、【安産霊神】なる御神名は、辞典・記紀等には見当たらない。『諸祭神名総覧』には、六人部の『顕幽順考論』に、五柱の中として「津速産霊神・興台産霊神(こごとむすび)・活産霊神・足産霊神・角凝産霊神の名がある」とするので、「安産霊神」は、底本の解説者の誤りと思われる。

[*3]
 造化の神(ぞうかのかみ)
 自然界の主要な諸現象をつかさどる神々。
・風の神=級津彦神(しなつひこのかみ)
・火の神=火雷神(ほのいかづちのかみ)
・金属の神=金山彦神(かなやまびこのかみ)
・水の神=弥都波能売神(みずはのめのかみ)
・土の神=埴山姫神(はにやまびめのかみ)

[*4]
『顕幽順考論』
 本書と同じく、幽冥の政事や現世との関係などが述べられている六人部の代表的な著作のひとつ。

TOP PAGE